聖路加ラプソディ。

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 晩御飯を食べて、体全体に違和感を感じたと思ったら、突然急な胃痛に襲われました。いつもは内容物を出しきり、胃薬を飲むと治まるのですが、今日はまったく衰える気配がありません。悩む事 3 分、聖路加病院の救急外来で診てもらう事にしました。時計を見れば、この時、深夜の 01:00 。まず 119 番に電話してから京橋消防署に続いて電話し、近所の聖路加病院にアポを取ってもらった後、聖路加病院に自らも電話連絡をし、救急外来に徒歩で向かいました。

 救急の受け付けで手続きを済ませ、椅子に座って待っていると、聞きなれない言葉が病棟の方から聞こえてきます。振り返れば家族と思われる 3 人のロシア人ご一行。その内、1 人の若い青年が流暢な日本語を操り、ご両親と思われる憔悴しきった老男女の疑問をオペ服を着た先生にぶつけています。胃が悪いのか? カメラは飲ませたのか? 出血はあるのか? などなど。ロシア語でまくし立てる両親の口から幾度となく飛び出したのが、アナスタシアという女性名。どうやら倒れてしまったのが、このアナスタシアさんで、彼女は老男女の娘さんらしく……、いやいや、待て待て、こちらも激しい胃痛に苦しむ身、アナスタシアの事はどうでも良いのです。

 そんなこちらの胃痛を知ってか知らずか、ロシア人 3 人の先生への質問攻撃は続きます。どうやら 3 人は倒れた瞬間を見ておらず、原因がわからないようで、それなら CT スキャンが必要だろうとは先生。いや、だから、待てよと。胃痛持ちが胃痛で救急外来に来るのですから、その痛みは相当なもので、確かに倒れてはいないものの、こちらだって苦しいのです。

 挙句の果てにアナスタシアのお母さんが、天を仰いだかと思うと、両手で顔を多い、椅子にへたり込むではありませんか。お父さんはお母さんの肩に手を当てて、何か優し気な言葉で語りかけています。そんな洋画でしか見た事がない光景に目を奪われた、その時、胃痛とは違う衝撃が頭を駆け抜けました。こ、こ、こ、このロシア人一家にアナスタシアの病状を説明しているのは、どう考えても内科医の先生ではありませんか! あれれれ、この耐え難い胃痛の診療は、ひょっとしてアナスタシアの両親と先生の通訳を通した日露語間の病状説明トーク待ち!?

 この時点で 01:40、いてもたってもいられず受け付けに駆け寄り、どれくらい待つのかを詰問すると、他に待っている患者はいないものの、今急患 3 人を診察治療中で、どれくらいかかるかわかりませんとの事。ここでね、頭の中で何かが弾けて、「 あのな、ならな、京橋消防署から受け入れ確認が来た時に、その旨、言うとか、直接本人が電話しているのだから、そこである程度の待ち時間が発生すると教えてくれるとか、それなりの対処があるだろう? 」と、受け付けのおじさんとお兄さんを怒鳴ってしまったのです。や、や、や、やってしまった! 救急外来の病棟全体が水を打ったように、しーーーーん。あれだけうるさかったアナスタシア一家の声すら聞こえません。こ、こ、こ、こういう時にさ、アナスタシアについて口に唾しながら喋ってよ。

 救急外来のおじさんがあたふたしながら、病棟を見に行こうとしたのですが、こちらも怒鳴ってしまった手前、このまま待っている気にもならず、 「 キャンセルな。 」 と一言言い残して聖路加病院を後に。記録的な暑さの 10 月とはいえ、深夜はさすがに秋の涼しさ。星など見えない黒い夜空を見上げれば、あれれ、いつの間にか胃痛も消えていましたとさ。家を出る前に飲んだガスター 10 が効いたのかな。診療せずに胃痛を治すなんて、聖路加病院、恐るべし。おしまい。